7月の日記2 「プラータナー」のこと/自転車
- 2019/07/07
7月5日 金曜日
「プラータナー:憑依のポートレート」を観に池袋の東京芸術劇場へ。
この舞台についてtwitterなどでは様々な感想や舞台写真が掲載されていたのだが、それは基本何も見ないようにする。感想を先に知るのが何だか勿体無い気がしちゃって。貧乏性なのかな。自分の目でまずは見てみたい。上演時間が4時間ということ、演出がチェルフィッチュの岡田(利規)さんだということ、俳優が全員タイの方だということぐらいは知っていたのでそれでいいやと。「知らな過ぎだろ!」とも思いつつ、でもちょっと乱暴な、そういう気分だったのだ。
追加公演ということで、朝11時からの上演。早起きのわたしにはありがたい時間設定。舞台休憩がそのままランチの時間になるのだろうということでコンビニでバナナを買っていく。バナナ持参の劇場入りとは、まるで自分が舞台に出演するときのようだ。
4時間を堪能する。観終わって思ったのは、すごくよかった、観ると決めて本当によかったということ、そして、この諸手を挙げて感動とかではない浮遊する気持ちの置き場のなさ、だった。うまく言葉にできない、誰とも共有できない、自分が正しいのか間違っているのかわからないけど、ちゃんと自分の言葉や感覚で判断しよう、ぼんやりした頭と身体でそう思った。帰り道もずっと考えていた。まずタイの俳優さんがとても魅力的だった。身体も、声も、映画も、動きも、全てに釘付けだった。みんな可愛い。チャーミング。ずっと観ていたい。そして岡田さんの演出はものすごくかっこよかった。岡田さんの目が私たち観客の目になって、同じものを観ている瞬間がずっと続いている気がした。岡田=わたし。それは今まで感じたことなかった感覚な気がした。その同化とはまた別に、急に岡田さんの目がレンズとなり、そこに描かれている世界は異国の映画となっていた。いきなりピョーンと飛躍していくのが、感覚的ですごく面白くて興奮する。岡田さんってどうなってるのかな、頭の中。稽古を見てみたい、そしてどんな風にこの世界が構築されたのか目撃したい。それは藤谷香子さんの衣装もcontact Gonzoの塚原悠也さんの振付もすごくよくて、なんというか、語彙なくて恥ずかしいんだけど、全体通してめちゃくちゃよかったのだ!でも、わたしはそのことに全然喜べない自分に気がついてもいて、それが何なのかと考えていた。
それはようやく自分の中で言葉になりつつあって、それはやっぱりどうしたってウティット・ヘーマムーンさんの書いた「プラータナー」という原作の存在だ。この原作小説に書かれているものがあまりにきつい。もう本当に苦しかった。それは何も主人公の内面描写や性描写がきついということでは全然なくて、書かれた言葉の先にある、結果的に追い詰められる「生」について、わたし自身が対峙しなくてはいけないという現実に。そこをすっ飛ばしてこの作品を「わー素晴らしい!」とか軽々しく言えねえよって思ったのだ。タイという国の政治情勢、苦しむ若者の性、消えてしまう命、生きづらい、とにかく生きづらい、そんないろんな要素が複雑に絡み合っているこの舞台。わたしはタイの国が抱えている問題を何も知らない。しかしここに存在する全ての瞬間を自分のこととして、置換して考えてしまう。この国で(タイで→日本)で、弱い存在である私たちはどうやって生きていけばいいのだろう。世の中から絶対になくならない闇についてわたしはどのような考えを表明すべきなのかだろう。それは別に他人へ表明するということではなく自分自身の生きるための意思としてどう考えればいいのかと、突きつけられる。だから、この舞台と向き合うのが怖いのだ。小説、怖くて読めない…。きっと身体も心も持って行かれてしまうにきまっている。それが耐えられるのか。「傑作です!」って晴れやかに言えるのか、自分が心配なんだ。別に言えなくていいのか?でも自分のくせとして、やっぱり観たものに何かしらの決着をつけたいのかも。
後半、ある若者の死が描かれる。その物語が悲しくてずっと寂しい。書いている今も泣きそう。死なないで欲しかった。物語(フィクション)に対して、そんな馬鹿げた感想あるかね?でもね、無責任なこと思ったんだけど、わたし以外の観客の多くの人が同じ気持ちになったんじゃないかな。「死なないで欲しかった」と。だからといって「物語の中で人が死ぬのに辟易している」という意味では全然なくて、「彼」が死んでしまうことが、本当に残念だと思ったのだ。で、その寂しさ、心持ちがずっと続いている。死が近い、わたしにもあなたにもって感じ。こんな悲しい死は舞台上ではなく日常にあるのだと、自分は他の誰れ彼と同じように寄辺ない存在だと、皆気がついているのかもしれないな。
考えながら、帰宅。時間が経って、少しずつ冷静に考えられるようになる。隣駅で途中下車して買い物をする。夕食はたこを食べる。アピチャッポンに続いてのタイ。全然違うものだけど、寄り添ってもいる。世界が広がり、思考が進み、遠くにあったものを身近に感じる。
どちらもよかったな。観てよかったな。やっぱり小説、読んでみよう。
メモのつもりだったが長くなってしまった。読み返し、全然うまいこと書けていないと思う。仕方ない。
7月6日 土曜日
自転車を盗まれる!ショック!自転車屋の孫なのに(関係ないけど)。